命は深遠だからこそ戦争なんかで簡単に奪わないで欲しい💛NHKスペシャル 人体Ⅲ 第4集 果てしなき命の探求
人体Ⅲ 第4集 果てしなき命の探求
こんにちは
猫好き父さんです
また新しい戦争がはじまりました
ロシアウクライナ戦争は終わりが見えません
命の意味を今こそよく考えるときだと
思います
内容
タモリ×山中伸弥「人体」シリーズの最終回。2022年、“いち研究者”として現場に復帰した山中さん。生命科学の根底を揺るがす新発見「ダークプロテイン」にまつわる謎に挑んでいる。生命の神秘に迫り、私たちの健康を支える医学の進歩にもつながる最先端の研究現場をドキュメント。そして8年にわたる「人体」の番組を通して、命と向き合ってきたタモリさん・山中さんが、シリーズの最後に語り合う“私たちの命の意味”とは?
出演
【司会】タモリ,山中伸弥,【語り】久保田祐佳,板垣李光人
キネシンスーパーファミリー
キネシンスーパーファミリー(KIFs: Kinesin Superfamily Proteins)は、細胞内で分子モーターとして働くタンパク質の大きなグループです。彼らは細胞の活動に不可欠な様々な役割を担っており、特に**微小管(びしょうかん)**という細胞骨格の上をレールのように移動し、細胞内の様々な「荷物(カーゴ)」を運搬することで知られています。
キネシンスーパーファミリーの基本
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分子モーターとしての機能:
- キネシンは、ATP(アデノシン三リン酸)という細胞のエネルギー源を消費して、そのエネルギーを運動に変えることができます。
- 微小管という筒状のタンパク質繊維をレールとして、その上を「歩く」ように移動します。
- この移動によって、細胞内の特定の場所に小胞(細胞内の物質を包んだ袋)、ミトコンドリア(細胞のエネルギー工場)、タンパク質複合体、mRNAなどの様々な「荷物」を運びます。
- ほとんどのキネシンは微小管のプラス端方向(細胞の中心から末梢へ)に移動しますが、一部のキネシン(Kinesin-14ファミリーなど)はマイナス端方向(末梢から中心へ)に移動する特性を持っています。
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構造:
- キネシンは一般的に、以下の3つの主要なドメインから構成されます。
- モータードメイン(ヘッドドメイン): ATPを結合・加水分解し、微小管に結合する部分。キネシンファミリー間でよく保存されており、運動の「足」の役割を果たします。
- ネックドメイン/ストーク: モータードメインとテール(カーゴ結合)ドメインをつなぐ柔軟な部分。運動の方向性や効率に関わります。
- テールドメイン(カーゴ結合ドメイン): 運搬する荷物(カーゴ)を結合する部分。この部分はキネシンファミリー間で非常に多様であり、それが様々な荷物を運ぶ能力につながっています。多くの場合、アダプタータンパク質を介してカーゴと結合します。
- キネシンは一般的に、以下の3つの主要なドメインから構成されます。
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多様性:
- ヒトやマウスでは、約45種類のキネシン遺伝子が同定されており、これらは機能や構造の違いに基づいて14のファミリー(Kinesin-1からKinesin-14)に分類されています。
- それぞれのキネシンは、異なる荷物を運び、細胞内の異なる場所で、異なる細胞機能に特化しています。
キネシンスーパーファミリーの主な役割
キネシンスーパーファミリーは、細胞内で非常に多岐にわたる重要な役割を担っています。
- 細胞内物質輸送: 最も主要な役割です。神経細胞の軸索内での物質輸送(軸索輸送)は特に有名で、神経伝達物質や細胞骨格タンパク質などが、キネシンによって神経終末へ運ばれます。
- 細胞分裂(有糸分裂・減数分裂):
- 紡錘体(細胞分裂時に染色体を分ける装置)の形成や、その形態維持に関与します。
- 染色体の分離や移動にも重要な役割を果たします。
- 一部のキネシンは、微小管の伸長や短縮(脱重合)を制御する機能も持ちます。
- 細胞骨格の形成と維持: 微小管のダイナミクス(成長と収縮)の調節に関与し、細胞の形態形成や維持に貢献します。
- 臓器の発生と発達: 胎児の発生期における細胞の分化や器官形成にも関与することが報告されています(例:FGF受容体の輸送による初期胚形成)。
- シグナル伝達: シグナル分子や受容体の細胞内輸送を介して、細胞内外からの情報伝達を制御します。
- 繊毛(せんもう)や鞭毛(べんもう)の形成・機能: これらの細胞外構造の形成や、その運動にも関与します。
キネシンスーパーファミリーと疾患
キネシンの機能不全は、様々な疾患の原因となることが示されています。
- 神経変性疾患: 軸索輸送の異常は、アルツハイマー病、パーキンソン病、ALS(筋萎縮性側索硬化症)などの神経変性疾患の発症や進行に関与すると考えられています。
- 精神疾患: 特定のキネシン(KIF3Bなど)の遺伝子異常が、統合失調症の原因となる可能性が示唆されています。
- 癌: 細胞分裂に関わるキネシンの中には、癌細胞の増殖を促進するものがあり、抗がん剤の標的となる可能性も研究されています。
- 糖尿病: 特定のキネシン(KIF5Bなど)がインスリン分泌に関わることで、血糖恒常性の維持や糖尿病の予防に影響を与えることが示唆されています。
- 胎児の発生異常: キネシンの機能異常は、胎児の発生における様々な異常を引き起こす可能性があります。
キネシンスーパーファミリーの研究は、細胞の基本的な生命活動を理解する上で非常に重要であるだけでなく、多くの疾患の病態解明や新たな治療法の開発にもつながると期待されています。
ダイニン(Dynein)
ダイニン(Dynein)は、キネシンと同様に、細胞内で重要な役割を果たす分子モーターの一種です。ATPを加水分解して得られるエネルギーを利用して、細胞骨格である**微小管(びしょうかん)**上を運動します。
ダイニンの主な特徴
- 移動方向: キネシンが主に微小管のプラス端方向(細胞の中心から末梢へ)に物質を運ぶのに対し、ダイニンは**微小管のマイナス端方向(細胞の末梢から中心へ)**に物質を運ぶことが最大の特徴です。これにより、細胞内の物質輸送に方向性が与えられ、効率的な物流システムが構築されています。
- 構造:
- ダイニンは非常に大きなタンパク質複合体であり、数種類のポリペプチド鎖(重鎖、中間鎖、中間軽鎖、軽鎖)から構成されます。
- 重鎖がその中核をなし、ATP加水分解と微小管への結合によって運動を生み出す「モータードメイン(ヘッドドメイン)」を含んでいます。このモータードメインは、AAA+ ATPaseファミリーに属する複数のドメインが環状に配置された特徴的な構造をしています。
- 重鎖から突き出たストークと呼ばれる部分が微小管に結合し、運動の原動力となります。
- その他の鎖は、カーゴとの結合やダイニンの安定性、調節に関与します。
- ATP駆動: ATPの加水分解によって生じる構造変化を利用して、微小管上を「歩く」ように移動します。
ダイニンの種類
ダイニンは、大きく分けて2つの主要なタイプに分類されます。
- 細胞質ダイニン(Cytoplasmic Dynein):
- 細胞内で最も多様な物質輸送を担うダイニンです。
- 小胞(細胞内の物質を包んだ袋)、オルガネラ(ミトコンドリア、ゴルジ体、エンドソームなど)、核、タンパク質複合体、mRNAなど、様々な荷物を細胞の末梢から中心へと運びます。
- 神経細胞の軸索内での逆行性輸送(シナプス終末から細胞体への物質輸送)に特に重要です。
- 細胞分裂(有糸分裂・減数分裂)においても、紡錘体の形成、染色体の分離、核の移動などに重要な役割を果たします。
- 軸糸ダイニン(Axonemal Dynein) / 鞭毛・繊毛ダイニン:
- 繊毛や鞭毛(細胞の表面にある毛状の突起で、運動や物質輸送に関わる)の動きを生み出す主要なモーターです。
- 繊毛や鞭毛の内部にある微小管の構造(軸糸)に結合し、微小管同士を滑らせることで、繊毛や鞭毛の波打つような運動を駆動します。
- 外腕ダイニンと内腕ダイニンという2種類があり、それぞれ異なる周期で微小管に結合しています。
ダイニンの主な役割
ダイニンは細胞内で以下のような多岐にわたる重要な生命現象に関与しています。
- 細胞内物質輸送: 細胞質内の様々なオルガネラ、小胞、タンパク質などの細胞中心方向への輸送。
- 神経軸索輸送: 特に神経細胞において、シナプス終末から細胞体への物質の逆行性輸送(必要な情報や物質を細胞体へ送り返す)。
- 細胞分裂:
- 有糸分裂紡錘体の形成、維持、位置決め。
- 染色体分離、娘細胞への均等な分配。
- 核の移動。
- 繊毛・鞭毛運動: 繊毛や鞭毛の規則正しい運動を生み出し、これにより細胞の移動(例:精子)や、体液の移動(例:気管の粘液、卵管の卵子)を助けます。
- 細胞の形態形成: 細胞骨格の動態を制御し、細胞の形や構造の維持に貢献します。
ダイニンと疾患
ダイニンの機能不全や遺伝子異常は、様々なヒトの疾患と関連することが知られています。
- 神経変性疾患: 軸索輸送の異常は、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経変性疾患の発症や進行に関与すると考えられています。ダイニンの変異が運動ニューロン病の原因となることも示唆されています。
- 繊毛機能不全症候群(原発性繊毛ジスキネジア、PCD): 繊毛や鞭毛の軸糸ダイニンに異常が生じることで、繊毛の運動が障害される先天性の疾患です。気道の異物排除能力が低下するため慢性的な呼吸器感染症(慢性副鼻腔炎、気管支拡張症など)を引き起こし、男性では精子の鞭毛運動異常による不妊、また内臓逆位を伴うカルタゲナー症候群(Kartagener syndrome)の原因ともなります。
- 滑脳症(Lissencephaly): 脳の表面にしわ(脳回)が形成されず滑らかになる先天性の脳奇形です。特定のダイニン関連タンパク質(LIS1など)の異常が原因となることがあります。これは、神経細胞の移動(マイグレーション)にダイニンが関与するためです。
- 癌: 細胞分裂に関わるダイニンの一部は、癌細胞の異常な増殖や転移に関与する可能性が指摘されており、新たな抗がん剤の標的としても研究が進められています。
ダイニンは、細胞内の生命活動の根幹を支える非常に重要な分子モーターであり、その研究は基礎生物学だけでなく、様々な疾患の病態解明や治療法開発にも貢献しています。
分子シャペロン
分子シャペロン(Molecular Chaperone)は、細胞内でタンパク質が正しい立体構造(フォールディング)を形成するのを助けたり、誤って折りたたまれてしまったタンパク質を修正したり、分解を促したりする、「タンパク質の一生」を支える重要なタンパク質の総称です。フランス語の「シャペロン(chaperone)」が、かつて若い女性が社交界に出る際に付き添い、保護する年長の婦人を指したことに由来します。
分子シャペロンの主な役割
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タンパク質の正しいフォールディング(折りたたみ)の補助:
- タンパク質はアミノ酸が鎖状に繋がった「ひも」のような状態(新生タンパク質)で合成されますが、機能を発揮するためには、それぞれ固有の複雑な立体構造に正確に折りたたまれる必要があります。
- 細胞内は様々な分子で混み合っており、新生タンパク質が正しいフォールディングを自力で行うのは難しい場合があります。また、途中で誤った折りたたみをしたり、他のタンパク質と不適切に結合して凝集したりするリスクもあります。
- 分子シャペロンは、新生タンパク質が正しく折りたたまれる過程を物理的にサポートし、他の分子との不必要な相互作用を防ぎます。特に、細胞内の様々な区画(細胞質、小胞体、ミトコンドリア、葉緑体など)でそれぞれ特化したシャペロンが働いています。
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変性タンパク質の再フォールディングと品質管理:
- 高温、pH変化、酸化ストレスなどの様々な細胞ストレス条件下では、正常なタンパク質でも立体構造が壊れて変性したり、誤って折りたたまれたりすることがあります。
- 分子シャペロンは、これらの変性・不良タンパク質に結合し、正しい構造に再フォールディング(修復)を試みます。
- 再フォールディングが不可能な場合は、プロテアソームなどのタンパク質分解システムへと導き、分解を促すことで、細胞内での有害なタンパク質凝集を防ぎます。これは、細胞のタンパク質品質管理システムの重要な一部です。
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タンパク質の輸送、集合、分解の調節:
- フォールディングだけでなく、タンパク質の細胞内での輸送(例:ミトコンドリアへの取り込み)、複数のタンパク質が集合して複合体を形成する過程、あるいは特定のタンパク質の分解など、タンパク質の一生における様々な段階に関与します。
分子シャペロンの種類
分子シャペロンは、その機能や構造、分子量などによって様々なファミリーに分類されます。代表的なものには、熱ショックタンパク質(Heat Shock Proteins: Hsp)として発見されたものが多く含まれます。
- Hsp70ファミリー:
- ATP依存的にタンパク質に結合・解離し、フォールディングや分解に関与します。
- 新生タンパク質のフォールディングの初期段階や、変性タンパク質の再フォールディングに広く関わります。
- 例:Hsc70 (恒常的に発現)、Hsp70 (ストレス誘導性)。
- シャペロニン(Hsp60ファミリー):
- バレル状の多量体構造(カゴのような形)を持ち、内部にタンパク質を取り込んで隔離された環境でフォールディングを助けます。
- 例:GroEL/GroES(細菌)、Hsp60/Hsp10(真核生物のミトコンドリア)。
- Hsp90ファミリー:
- ステロイドホルモン受容体やキナーゼなど、特定のシグナル伝達タンパク質の成熟や活性化に特異的に関与します。
- 癌細胞で過剰発現していることが多く、抗癌剤の標的としても注目されています。
- Hsp100/Clpファミリー:
- 凝集したタンパク質を解きほぐす(ディスアグリゲーション)活性を持つものが多く、特に強いストレス下で働くことがあります。
- sHsp(small Hsp)ファミリー:
- 比較的分子量が小さく、ストレス時に変性タンパク質に結合して凝集を防ぎ、より大きなシャペロンによる修復を待つ「ファーストエイド」のような役割を果たします。
- 小胞体シャペロン:
- 小胞体(分泌タンパク質や膜タンパク質の合成・修飾を行う細胞小器官)には、BiP、カルネキシン、カルレティキュリンなど、独自のシャペロン群が存在し、小胞体に入ってくるタンパク質の品質管理を行います。
分子シャペロンとストレス応答
多くの分子シャペロン、特にHspファミリーのタンパク質は、細胞が熱、酸化ストレス、重金属、虚血などの様々なストレスにさらされると、その発現量が増加します。これは**ストレス応答(熱ショック応答など)**の一部であり、ストレスによって変性したタンパク質が細胞内に蓄積するのを防ぎ、細胞が生き残るための防御機構として機能します。
分子シャペロンと疾患
分子シャペロンの機能不全や異常は、様々な疾患の原因となることが明らかになっています。
- 神経変性疾患: アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)など、多くの神経変性疾患では、特定のタンパク質が誤って折りたたまれ、凝集して神経細胞内に蓄積することで細胞死を引き起こします。分子シャペロンの機能低下や、これらの凝集タンパク質への結合能力の低下が病態に関与すると考えられています。
- 癌: 癌細胞は増殖が盛んでストレス耐性が高いため、Hsp90やHsp70などの特定のシャペロンの発現量が増加していることがあります。これらのシャペロンは癌細胞の生存や増殖に必須であるため、シャペロンを標的とした抗癌剤の開発が進められています。
- 代謝性疾患: 糖尿病や肥満などでも、タンパク質の品質管理システムやシャペロンの機能異常が関与する場合があります。
- その他の疾患: 遺伝性疾患の中には、特定のシャペロンの機能異常が原因で、適切なタンパク質が合成・フォールディングできないために起こるものもあります。
分子シャペロンは、生命活動の維持に不可欠なタンパク質の「良き伴侶」であり、「品質管理者」です。その研究は、生命現象の基本原理の解明だけでなく、病気の治療法開発にも大きく貢献しています。
ダークプロテイン
「ダークプロテイン(Dark Protein)」という言葉は、生物学の分野でいくつかの文脈で使われることがあります。大きく分けて、以下の2つの意味合いで使われることが多いでしょう。
1. 3D構造が不明なタンパク質(ダークプロテオームの一部)
これは、「ダークゲノム(dark genome)」という言葉から派生した概念で、既存のデータや解析手法ではその正確な三次元立体構造が解明されていないタンパク質を指します。
- ダークゲノムとの関連性: ゲノム(遺伝情報全体)の中には、その機能や役割がまだ完全に解明されていない「暗黒領域(ダークゲノム)」が存在します。同様に、プロテオーム(細胞内のタンパク質全体)の中にも、配列は分かっていても、構造や機能が不明な「ダークプロテオーム」が存在すると考えられています。
- 構造解析の難しさ: タンパク質の構造解析には、X線結晶構造解析や核磁気共鳴(NMR)分光法といった高度な技術が必要ですが、これらの手法はすべてのタンパク質に適用できるわけではありません。特に、以下のようなタンパク質は構造解析が難しい傾向にあります。
- 内在性不規則タンパク質(Intrinsically Disordered Proteins; IDPs): 特定の固定された三次元構造を持たず、溶液中で柔軟に構造が変化するタンパク質です。細胞内でシグナル伝達や遺伝子発現調節など重要な役割を担っていますが、その柔軟性ゆえに構造解析が困難です。
- 膜タンパク質: 細胞膜に埋め込まれているため、水溶性のタンパク質とは異なり、精製や結晶化が難しい場合があります。
- 特定の生物由来のタンパク質: 既存のデータベースに類似の配列や構造情報が少ない、特定のウイルスや微生物由来のタンパク質なども、構造解析が困難な「ダークプロテイン」に含まれることがあります。
- 研究の現状: 近年、人工知能(AI)を用いたタンパク質構造予測技術(例:AlphaFold)の発展により、これまで構造が不明だった多くのタンパク質の構造が予測できるようになり、「ダークプロテオーム」の領域は徐々に「明るく」なりつつあります。しかし、予測された構造が実験的に検証される必要があるなど、研究はまだ途上にあります。
2. 生理機能が不明なタンパク質(主に微小なもの)
この文脈では、主にゲノム解析によって予測されるものの、その存在や生理機能がまだ確認されていない、あるいは十分に理解されていないタンパク質、特に**短いオープンリーディングフレーム(sORF)から翻訳されるマイクロプロテイン(microprotein)**などを指すことがあります。
- ゲノム情報からの予測: 次世代シーケンサーの登場により、大量のゲノム情報が解析できるようになりました。しかし、ゲノム上のすべての遺伝子がタンパク質をコードしているわけではなく、また、コードされていると予測されても、実際に細胞内で作られているか、どのような機能を持っているのかが不明なタンパク質が多数存在します。
- 「未知の未知(Unknown Unknowns)」: 「ダークプロテイン」はしばしば「未知の未知」と表現され、その存在すら認識されていなかったり、認識されてもその機能が全く不明なものを指します。
- マイクロプロテインの台頭: 近年、ごく短いペプチド(マイクロプロテイン)が細胞内で重要な生理機能を持つことが次々と明らかになっており、これらの多くが以前は「ダーク」な領域として見過ごされていました。
まとめ
「ダークプロテイン」という言葉は、文脈によって指す範囲が異なりますが、共通しているのは**「まだ科学的に十分な光が当てられていないタンパク質群」**という点です。これは、生命現象の理解を深める上で、そして新たな疾患の治療標的を見つける上で、非常に重要な研究領域となっています。今後の研究の進展によって、これらの「暗黒」の部分がさらに解明されていくことが期待されています。
NAT1
NAT1は、生物学の分野で異なる2つの主要なタンパク質を指すことがあります。
1. N-アセチルトランスフェラーゼ1(N-acetyltransferase 1)
このNAT1は、薬物代謝酵素の一種として広く知られています。
- 機能:
- 細胞内で様々な生体異物(医薬品、発がん性物質、環境毒素など)や内因性物質(ホルモンなど)をN-アセチル化という化学反応によって代謝します。
- N-アセチル化は、これらの物質の**解毒(排出を容易にする)や、逆に活性化(毒性や発がん性を高める)**に関与します。
- 特に、アリールアミンやヒドラジンなどの化学物質を基質とします。
- 遺伝子多型(Polymorphism):
- ヒトのNAT1遺伝子には、個人間で配列が異なる遺伝子多型が存在します。
- この多型によって、NAT1酵素の活性に個人差が生じます。NAT1の多型はNAT2の多型と比較して、一般的にアセチル化機能に対する影響は比較的軽微であるとされていますが、それでも薬物の代謝速度や毒性反応に影響を与える可能性があります。
- 研究により、特定のNAT1多型が、膀胱癌、乳癌、肺癌などの特定の癌のリスクや、薬物の副作用(例:抗結核薬イソニアジド)に関連する可能性が示唆されています。
- 疾患との関連:
- がん感受性:喫煙や加工肉の摂取によって生成される発がん性物質の代謝に関わるため、NAT1の遺伝子多型がこれらの物質によるがん発症リスクを修飾する可能性があります。
- 薬物応答:薬剤の代謝速度に影響を与えるため、特定の薬剤の効果や副作用の個人差に関与します。
2. NAT1(Novel APOBEC1 Target #1) / eIF4G2
こちらは、山中伸弥教授(iPS細胞でノーベル賞受賞)の研究経緯の中で同定され、タンパク質翻訳調節に関わるタンパク質として注目されたNAT1です。
- 発見経緯:
- 山中教授がAPOBEC1というRNAエディティング酵素の研究をしていた際、APOBEC1を過剰発現させたトランスジェニックマウスで肝細胞癌が高頻度に発生することを発見しました。
- その肝臓で異常にエディティングされているmRNAとして、このNAT1(Novel APOBEC1 Target #1)を同定しました。
- APOBEC1によるNAT1 mRNAのエディティングは、複数の終止コドンを生み出し、結果としてNAT1タンパク質をほぼ完全に消失させることが分かりました。
- 機能:
- このNAT1は、タンパク質翻訳開始因子の一つであるeIF4Gと相同性を持つタンパク質で、eIF4G2とも呼ばれます。
- 特定のmRNAの翻訳を調節する機能を持つと考えられています。特に、細胞がストレスを受けた際に、cap依存的な翻訳(一般的な翻訳経路)を抑制し、特定のmRNAのIRES(Internal Ribosome Entry Site)を介した翻訳を促進する働きがあることが示唆されています。
- 山中教授らの研究により、マウスの初期発生(原腸形成期)に必須であり、NAT1遺伝子を欠損させたマウス胚は致死となることが示されました。
- また、NAT1を欠損させたES細胞(胚性幹細胞)は、未分化な状態では正常に増殖するものの、分化能力が著しく障害されることが明らかになっています。これは、NAT1が発生や分化に必須の因子の翻訳調節に携わっていることを示唆しています。
- 過剰発現させるとタンパク質合成を抑制する作用があることも報告されています。
- 癌抑制遺伝子の可能性:
- APOBEC1の過剰発現がNAT1の機能を抑制し、マウスで高頻度のがんを発生させたことから、癌抑制遺伝子の候補としても研究されています。
まとめ
「NAT1」という言葉に遭遇した場合は、文脈によって上記のどちらのタンパク質を指しているのかを確認することが重要です。
- N-アセチルトランスフェラーゼ1(NAT1): 薬物代謝酵素であり、遺伝子多型が薬の効き目や副作用、がんのリスクに関連します。
- NAT1 / eIF4G2: タンパク質翻訳調節因子であり、初期発生やES細胞の分化に必須の役割を果たし、がん抑制遺伝子の可能性も指摘されています。
どちらのNAT1も、私たちの健康や生命現象の理解において重要な役割を担っているタンパク質です。
山中伸弥 教授が出演するNHKスペシャル「人体Ⅲ 第4集 果てしなき命の探求」が、6/15(日)21:00から放送されます。今回は、山中教授の研究の様子についても紹介しています。いよいよ最終回です。ぜひご覧ください。#NHKスペシャル #人体Ⅲ #生命科学 https://t.co/yGc3pYgXqU
— iPS細胞研究所 (@CiRA_KU_J) June 13, 2025